２回目を蒔いた大根の間引きをしながら、母を想う。
母は、４０歳になってからのにわか百姓だったから、農作業のハカも行かなかっただろうし、満足の収穫があったとも思えないけど、丁寧に楽しむことで、 しんどさを楽しみに換えていたのだろう。
間引き菜は鮮やかなみどりの即席漬けにして、子供のころのうまいもんのひとつだった。
今朝の味噌汁の吸い口は、双葉の間引き菜。ハート型の葉っぱがうれしい。
今、食の細くなった姉だったら、思い出して喜んでくれるかなぁ。

京都、嵐山に近い太秦の辺り。
竜安寺があり、妙心寺があり、御室があり大沢の池の大覚寺があり、嵐山に続く。
兼好の徒然草が生まれたところ、双ヶ岡の麓から、広隆寺。濃密すぎるほどのウオーキングコースである。
太秦撮影所は各映画会社が軒を並べ、昼の街に繰り出し、ちょんまげのままの役者が町の定食屋ののれんをくぐる。
姉は長年この街に住む。
広隆寺近くのレストランで姉と食事をしたことがあった。
隣席の身体つきは華奢なんだけど、骨太の手が気になった。
それにまぁ、その食欲の旺盛なこと。コレが八千草薫さんだった。
以来、しっかりの食べっぷりが印象に残っていて、仕事をこなす人の印象につながった。
今日、訃報を聞いた。８８歳。

姉、８３歳。夏に主人を亡くした後の姉を心配していた。
認知症であることが却って安心材料でもあったのだが。
甥と姪の丁寧な介護を受けての日々だったが、緊急入院して２回の手術。
入院している間はいい。が、退院後、５０代の今から甥姪に介護に埋没させるのはつらい。それに姪は受験生を抱えた正念場だし。
ワタシに出来ること探して１０月。
姉への心遣いは、常、疎遠の老齢姉妹では行き届かない。
姉よりも甥や姪の支援にまわろう。
出来ることは、バァサンの家庭料理。
ささやかでも、ほっとしたひとときが、束の間の力になってくれるかも。
太秦通いの日々を覚悟しよう。

それにつけても　「終わりよければ」という言葉がよぎる。

姉は頑張ってきた人だった。
おかげで、出来の悪い妹は、何かにつけて比べられ、バツの悪さを何度も味わうことになったのだが。
もはや、母の元で育った共通の想い出に浸れる状態でもないし、ワタシの存在すら、姉の脳みそでは危うい気はしている。
頑張って、華やかに生きて、最後は子供の世話になる。
世話を懸けるつらさも感謝も述べられずに、おさらばになるとしたら。

「罪」　罪なこと。
つくづく、子どもたちに世話を懸けたくないなぁ。
不本意からどうしたら脱出できるか。
追想とこれからが交錯して、生きているというのは最後まで大変なこと。

普通の日、渇望している普通の日なんて、実はつらさや悲しみを抱え込むコレが生きていることの実際なのだとしても、普通の営みを、 「平穏」変えることはできないか。
歩かなくなって腫れ上がった足で、姉はリハビリを続けている。

大きいものはかかれないから、コツコツ。
これは、先月作った町内の人のエプロンの残り布で。
この残り布が、また箪笥の隅に残ってゆくか、はたまた、生ごみになるか。
我慢ならない気がして、人の事を言える義理かよと思いながら、バッグとポーチに。バッグ脇の切り替え布は、コレもご近所さんのジャケット。
相変わらず、「これなんとかならない？」で、古着の持ち込みがある。
古着屋に見積もりしてもらっても、貴金属も提供しないと、買い取ってくれないだそうだ。そういう買い取り商売なんだ。

同じ型紙でバッグ二つ。脇を縫い縮めてみたり。
このドット柄も、提供品。大量にある。手持ちのコールテンと合わせて。
気楽にもてるバッグを作りたい。
実は、型紙を貯める趣味と、たくさん作って、年度末の自治会総会の参加賞に出来るか。

自分の断舎離は、ほど遠い。

「やすめない、やすめない！　ガンガン食べます。」と甥っ子。
ワタシが使ったことのない香料や調味料を駆使して、料理には不自由無さそうだし、介護する母親に味の変化も考えてくれているのだろう。
メーンのご馳走は決めて作れても、なかなかもう一品の小鉢を作るのは大変らしい。
「箸休め的な一品があるとねー。」と言ったとたんに返ってきた久しぶりに聞く弾んだ言葉。
なかなか、心底楽しめない介護の明け暮れ、ワタシの小鉢に喜んでくれたんだ。

喜んでくれたのは、サラダ用昆布の一皿、単に昆布の細切りなんだけど、塩もみしたキャベツと混ぜ合わせただけのもの。
生協で見つけて、気に入っていた。もう一品の時に助けてくれる。
マッチ棒に切った大根に合わせたり、極めつけは、潰した梅干しと和えて、醤油たっぷりで、新米の季節のおもわず顔がほころぶ強力な援軍。
簡単だし。お弁当の脇にも使えるし。常備が利く。
京都の帰りデパ地下もまわってみたけど無かった。生協のカタログに時々しか載らないから、と次の販売を生協に問い合わせた。
１１月の第２週。
たくさん買って、自信をもって配ることに。この秋のめっけもの。
食材の豊富なこの季節にだけど、昆布とかじゃことか、そして地味な一品のすごさ。